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最高裁判所第一小法廷 昭和45年(オ)18号 判決 1970年6月18日

上告人

伊佐山香

代理人

一松弘

被上告人

山口武彦

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人一松弘の上告理由(一)について。

手形保証人がその手形行為に基づき主たる債務者と独立して手形上の債務を負担するものであることは、所論のとおりであるが、その責任は、保証としての性質上、手形保証人が自己の負担する債務を履行したときは、主たる債務者に対して求償権を行使しうることを前提とするものである(手形法三二条三項、七七条三項)。しかるに、主たる債務者の手形債務につき消滅時効が完成した場合にも手形保証債務が消滅しないものとするときは、手形保証人がその債務を履行した後に主たる債務者に対し求償権を行使しても、主たる債務者から自己の債務の消滅時効を援用されて、手形保証人は求償の途を失う事態を生ずることになり、手形保証の性質に反するものといわなければならない。されば、主たる債務につき消滅時効が完成したときは、手形保証債務も消滅し、手形保証人は、手形所持人の請求に対しては、みずから主たる債務者の手形債務の消滅を主張してその履行を拒むことができるものと解するのが相当である。その他、原判決には何等所論の違法はない。論旨は採用することができない。

同(二)について。

原審の確定した事実関係のもとにおいては、被上告人は、手形保証人として本件手形に署名したものであつて、本件手形の振出人としての責任を負うものものではない旨の原審の判断は、正当として是認できる。論旨引用の最高裁判決(昭和四三年(オ)第八五四号、同年一二月一二日第一小廷判決、民集二二巻一三号二九六三頁)は、本件と事案を異にして適切でなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松田二郎 入江俊郎 長部謹吾 岩田誠 大隅健一郎)

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